「生きる力を育む」
 奈良県高田こども家庭相談センター  池田 常雄

 里親の皆さん、毎日の子育てご苦労様です。新しく子どもを家庭に迎えることは、大きな喜ぴでありますが、戸惑われることも多いと思います。
 よく知られているように、子どもは赤ちゃん返りをします。今まで出来ていたことが出来なくなり、強い甘えを示してきます。その甘えを親が受け止めても
受け止めてもさらに甘えてきます。子供にとって見れば「みんなかわいいよ」ではだめで「あなただけがかわいいよ」でなければ納得してくれません。
 新しい家庭にくる子どもは戸惑います。自分はこれからどうなっていくのか不安が一杯で、そのような行動をとるのでしょう。新しい家庭に馴染むまでには、時間が必要なのです。

 子どもなりに、自分が今、この家庭にいる意味を考え心の整理をつけようともしているのです。

 ところで、平成19年度の第2回里親セミナーで講師の家庭養護促進協会、米沢豊子先生がその子の生い立ちや成長のプロセスをとどめておいてほしい、あなたは小さい時こんなだったよと話せることが大切だと言われました。
 自分の過去を確認できることは、成長にとってなくてはならないものだと思います。どんな小さなことでもよいから記録にとどめて下さい。写真による記録も重要です。親から大切にされていたという証になるでしょう。


 個人的な話になりますが、私は成長した娘に、私とお風呂に入りたがったり、一緒に寝てくれとせがんだ話をよくしました。娘は、それは小さい時だと反発しますが、そこには親を信頼していた過去があるのです。子どもにとって何よりも大切なことは、自分が親から愛され、大切に思われているという感覚です。細かいエピソードを通じてお子さんとのつながりを深めていっていただきたいと思います。血のつながりはなくても、いつも自分を見守ってくれている人がいるという実感こそ子どもにとっての生きる力でしょう。

 私は、何年か前に、ある中学生を児童養護施設に入れました。高校に進学した彼は、卓球部で3年間頑張り試合にもよく出場しました。卓球関係者でもある私は、彼の試合を注目して見ていましたが、声をかけようと思いながら、ついに在学中には声をかけられませんでした。
 ところが彼が就職した後、偶然に道で出会ったので私は、彼に卓球の試合をいつも見ていたことやこういうサーブをよくしていたろうという話をしました。すると彼は「先生、ぽくのこと見ていてくれたんですね」と大変喜んでくれました。

 最近、赤ちゃんポストというものがあります。様々な事情で赤ちゃんを育てられない時に親が名前も告げずに置いて行きます。
 賛否ありますが私は、子どもの過去を奪うという点で、大変憂慮します。
 どうしても育てられない場合、全国の児童相談所では、事情を詳しく伺った上で乳児院にお預かりできます。しかし赤ちゃんポストの場合は、生んでくれた親の名前さえわからないのです。まさに根源的な過去を失わせるものと思います。

 このように言いますと子育てがとても困難に満
ちたもののように思われるかも知れません。それは実親であっても同じだと思います。しかしまた、日々成長していく子どもを見ることはこの上ない喜びであるでしよう。
 親といえども親だけでは成長できません。子どもによって成長させられる面が大きいのです。泣いたり笑ったりしながらお互いに成長していくのが子育てではないでしようか。

直線上に配置