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「養子里親の体験から」
里親H

 こんにちは。私は里親に登録して28年になるHといいます。家族は主人と娘、私の3人で、養子縁組をしている里親です。我が家に娘が来た当時はまだ特別養子縁組制度がなかったため、特別養子にはできませんでした。
 みなさんは里親についてどんなイメージを持たれていますか。
 私と26歳になる娘との、楽しく、時には辛かった話をさせていただきたいと思います。

 私が児童相談所を訪れたのは、とにかく子どもが大好きで、子どもが欲しいという、ただその一つの願いからでした。しかし当時奈良県には対象の子どもが少なかったため、大阪中央児童相談所を紹介していただきました。娘が我が家にきたのは生まれて7ヶ月目の時でした。私は30歳。

 それまでの家の中は大人3人で片づいていましたが、子ども一人加わっただけで雰囲気がガラッと変わり、おもちゃや、ぬいぐるみでいっぱいになりました。まるで保育園のようで、主人も帰宅すると真っ先に娘の元へ行き、娘の笑顔に仕事の疲れも忘れて遊んでいました。伝い歩きから、初めて一人で歩いた時の感動と熹びは今も忘れることができません。
 しかし今までの大人だけの生活とは一転し、当然ではありますが家の中は子どものスタイルになっていました。トイレに行くのもままならず、私が入ったトイレの前で娘が泣いていたのを今でも覚えています。こんなことからでも、子どもがどれだけ親を必要としているのかと考えさせられ、またその半面、娘が可愛くて仕方ありませんでした。

 ある日電車に乗っていた時、横におられた男性に、「お子様何歳ですか、うちの子はまだ喋れないんです」と話しかけられました。子どもが一緒にいるというだけで全く知らない人と会話がはずみました。泣いたり笑ったりと、子どもの成長する姿を見るのは親にとっていちばんうれしいことです。よその家族と何も変わりがないのです。でも一つだけ違うこと、それは「里親」であるということ。泣いて笑って、抱きしめて、かわいくてしかたないけれど、越えなくてはいけないハードルがあるのです。私の頭の中はいつも告知のことでいっぱいでした。
 「神様、もう一度私のお腹にこの娘を入れて生まれさせてぽしい」と何度思ったことでしよう。 娘が3歳になったころ、隣の奥さんの妊婦姿を見て、「私もお母さんのお腹から生まれてきたの」と聞いてきました。私は正直に「違うよ」と言いました。にこやかに言ったつもりでも、私の顔は引きつっていたと思います。本当に勇気がいりました。私にとっても辛いことであり、娘にとっても複雑なことだったのかもしれませんが、忘れないように娘に何度も言いました。
しかし、娘がまだ小さかったので深い意味が分からず、すんなり受け止められたように思います。

 そんなころ、私の友人が遊びに来て、「かわいい。私も子ともが欲しかったの」と里親の申し込みをされました。偶然、私と同じ歳の女の子でした。その友人は20歳を過ぎるまで告知をしませんでした。友人はこれまで隠し続けていたことに後ろめたさを感じると共に、告知後の子どものことが心配で不安な気持ちでいっぱいだったようです。しかし、そんな不安も一転し今も以前同様、家族で仲良く暮らしています。告知の仕方はそれぞれ違いますが、子どもとの信頼関係ができていることが一番大切だと私は考えています。

 今、世の中は親子の事件が多く、家族の絆が薄れていっているように思いますが、そのニュースが里親の家庭でなくて良かったと思っています。親の姿を見て子どもは育つ、子どもの手本となるように親も努力したいと思います。そして、子どもを「かけがえのない宝」であると考えてほしいと思っております。

 また、先日から「赤ちゃんポスト」がマスコミをにぎわしていますが、思春期の里子が聞いたら、どんな受け止め方をしているのでしょうか。きっと里親さんもドキドキしながら子どもの顔をうかがってニュースを見ておられると思います。里親だからということで卑屈にならず、生まれた時の出会いと熹ぴ、成長の熹びを素直に受け入れ、感動することで親子の絆が結ばれていくように思います。どんな時でも親の温かい愛情があれば、温もりがあればきっとこれからも生きる力になると思っています。たとえ道を外れたとしても、必ず親の元へ戻ってきてくれると私は信じています。

 子どもが16歳の時、私は乳癌になりました。このとき、主人のことは気にならなかったのですが、娘が結婚するまでは死にきれないと、自分の体より娘の将来が気になりました。半年後、もう片方にも転移していることが分かり、結局、一年に3度も手術を受けることになりました。私はかなりのショックで落ち込んでいましたが、娘に助けられながら、一年間リハビリに通いました。このことがきっかけとなったのでしょうか、娘は現在病院で看護の仕事をしています。今、娘は26歳、そろそろ結婚を考える時期です。私は毎日、娘の幸せだけを考えています。

 今日までどんな日もありましたが、子どもがいたからこそ、親もがんばることがてきたと思います。そして今、子どもに生きる支えをもらっています。